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今月の特集

「肺炎」~知られざる症状と治療~
呼吸器内科 岸 建志

はじめに

 肺炎とは、肺における炎症性疾患の総称であり、その原因は感染症だけでなく、自己免疫疾患、アレルギー、腫瘍、化学物質、放射線など多岐にわたります。肺は酸素を血液中に取り込むと同時に二酸化炭素を呼気中に排出する、「ガス交換」を行う大切な臓器ですので、肺炎を起こせば低酸素血症を引き起こし、生命に危険が及ぶ可能性があります。
 厚生労働省による国内における死因の統計調査で、肺炎は平成23年以後、脳血管疾患を抜いて3位に浮上してきました。肺炎死亡者数のうち65歳以上の高齢者の割合が97%も占めていることから、高齢化社会の進行が1つの要因であることが示唆されています。
 今回は最も頻度の高い感染症による肺炎について、その診断法、分類、治療法について説明します。

肺炎に感染する微生物とは?

 肺は人体の中で唯一外界に直接さらされている臓器です。そのため肺炎の原因で最も多くを占めるのは微生物による感染症です。肺に感染する微生物には①最近(約1~3μmの大きさで自己複製能力を有する原核細胞)、②ウィルス(10~100nmの大きさで核酸と殻だけの極小生物、自己複製能力がなく、標的細胞内に侵入して複製を作る)、③真菌(いわゆるカビで酵母~菌系の形態を示す真核細胞でおもに免疫力不全患者に発症)、④寄生虫(数mmの大きさでイノシシ、カニなどの体内に寄生、これを生で摂取して感染する)があります。
 成人における肺炎の多くは①の細菌感染症が原因です。インフルエンザなどの上気道感染症に続いて発症することが多いため、冬期に患者数が多くなります。高齢者や脳血管障害合症例では、嚥下機能が低下しているため、誤嚥性肺炎の割合が多くなります。

肺炎の診断

 肺炎における症状は、咳・喀痰・発熱が主で進行してくると呼吸困難・チアノーゼや胸痛などを呈してきます。ただし高齢者の場合、食欲不振・活動性低下などの非特異的な症状しかでない場合があるので注意が必要です
。  肺炎を起こしている場合、胸部聴診で肺雑音(いびき音や水疱音)が聴かれます。胸部レントゲン写真をとると、正常な肺は空気を含有しているので黒く写りますが、肺炎を起こしている部分は白くなります。これは肺胞内に細菌や白血球、それに伴う炎症性の浸出液が満たされるため、レントゲン線が透過しないためでです。CT(コンピュータ断層撮影)を用いると、単純レントゲン写真では見逃しやすい心臓や横隔膜の裏にある肺炎像も見つけることができます。

診断したらすぐに治療を

 細菌性肺炎は診断したら4時間以内に治療が必要です。治療には抗菌薬を用いますが、治療の遅れや不適切な抗菌薬の選択は予後不良につながります。
 抗菌薬の種類はその作用店により、最近の細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系(ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系)、DNA合成を阻害するアミノグリコシド系・マクロライド系・テトラサイクリン系、細胞膜を破壊するグリコペプチド系など多数あります。
 しかし、抗菌薬であればどの細菌にでも効く訳ではありません。例えば、同じセフェム系でも第1世代セフェムはグラム陽性菌に強く抗菌力を示す一方で、第3世代セフェムはグラム陰性菌により強く、抗菌力を示します。原因となる細菌が正確にわかれば、これを標的にした適切な抗菌薬を選択することができます。
 しかし、喀痰などから細菌を培養・同定するには数日間を要します。その結果を待っていたら、治療が遅れて患者の死亡につながりますので、医師は病状や患者背景、検査結果などから科学的根拠(エビデンス)に基づいて原因菌を推定し、最も適切な抗菌剤を投与することが必要となります。

市中肺炎と院内肺炎

 肺炎の発症した環境から市中肺炎(一般的生活を営んでいる人に発症)と院内肺炎(入院後、48時間以上経過してから発症)に大別します。

A.市中肺炎
 最も多い原因菌は肺炎球菌で約20%を占めます。次いで非定型病原体が多く、さらにインフルエンザ菌やモラクセラ・カタラーリスなど多種の菌が続きます。治療においては①細菌性病原体(肺炎球菌、インフルエンザ菌など)と②非定型病原体(マイコプラズマ、肺炎クラミジア、レジオネラ)に大別します。なぜなら②の病原体は細胞壁を持たないこと、あるいは細胞内に寄生する菌であることからβラクタム系抗菌薬が無効であり、マクロライド系、キノロン系、テトラサイクリン系を選択せなばならないためです。①②の鑑別には鑑別項目を用います。

細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別項目
年齢60歳未満
基礎疾患がない、あるいは軽微
頑固な咳がある
胸部聴診上、所見が乏しい
痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない
抹消白血球が10,000μL未満
6項目中4項目以上合致した場合、非定型肺炎の感度は77.9%、特異度は93.0%。上記1から5までの5項目中3項目以上合致した場合の感度は83.9%、特異度は87.0%


B.院内肺炎
 原因菌としては、緑膿菌や黄色ブドウ球菌が多く、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)など薬剤耐性を示すことが多いことから、これを想定した抗菌薬を選定する必要があります。

病態・症状からの原因菌推測

 肺炎の発症背景や、その特徴的な症状から原因菌を推測することも可能です。

特殊な病態・病歴から推測
疫学 推定原因菌
インフルエンザ流行時 肺炎球菌、インフルエンザ菌
黄色ブドウ球菌、化膿連鎖球菌
慢性呼吸器疾患
反復感染、喫煙
肺炎球菌、インフルエンザ菌
モラクセラ、緑膿菌、レジオネラ
脳血管障害、誤嚥
口腔病変、閉塞性病変
嫌気性菌
糖尿病 肺炎球菌、グラム陰性桿菌
(クラブシェラほか)
温泉旅行、循環式風呂 レジオネラ
鳥類との接触 オウム病クラミジア
家畜や妊娠している
       猫との接触
Q熱コクシエラ
長期ステロイド投与
HIV感染症
カリニ、結核
サイトメガロウィルス
アルコール依存症 肺炎球菌、嫌気性菌
老人医療施設入所者 肺炎球菌、グラム陰性桿菌
インフルエンザ菌、黄色ブドウ球菌
嫌気性菌、肺炎クラミジア


症状からの推測
症状 予想される原因菌
鉄錆色 肺炎球菌
悪臭を伴う喀痰 嫌気球菌
消化器症状
(下痢、腹痛など)
レジオネラ
中枢神経症状 レジオネラ、マイコプラズマ
ヘルペス口唇炎 肺炎球菌
水疱性鼓膜炎 マイコプラズマ
比較的除脈 レジオネラ、マイコプラズマ
クラミジア


肺炎における迅速診断法

 最も頻度の高い肺炎球菌については、感染症発症時に尿中や喀痰中の抗原を検出するキットなどがあります。治療が遅れると予後不良となるレジオネラ菌についても尿中抗原診断キットがあります。咽頭粘液中のマイコプラズマ抗原を検出するキットも近年臨床採用されました。
 また、良好な喀痰が得られた場合にはグラム染色を行って原因菌を推定することが可能です。肺炎球菌の場合はグラム陽性双球菌として観察されます。

感染症治療の3大要素

 感染症治療において抗菌薬を使用する場合には①抗菌力、②体内動態、③副作用について必ず留意する必要があります。

①抗菌力
 規定の方法で抗菌薬が最近の増殖を抑制できる最小の濃度であるMIC(最小発育阻止濃度:Minimal Inhibition Concentration)で示されます。数値が低いほど抗菌薬がよく効くという指標となりますが、あくまでも試験管内の検査結果であり、生体内での体内動態、臓器移行性などの影響で必ずしも効果が反映されません。

②体内動態
 抗菌薬が生体内でどれだけ有効に作用しているかを考えるため、PK(吸収・分布・代謝・排泄など生体内における薬物の動態)とPD(抗菌薬の効果、副作用の予測など薬力学)を組み合わせて解析する理論に基づいて抗菌薬治療を行うことが推奨されています。例えば、キノロン系抗菌薬は濃度依存的に作用する薬剤であるため、分割投与するより単回投与する方が有用である一方で、βラクタム系抗菌薬は時間依存的薬剤であることから、分割投与の方が推奨されます。

③副作用
 薬物によるアレルギー反応(ショック、蕁麻疹)や抗菌薬に特有の副作用(アミノグリコシド系における腎障害など)を理解して抗菌薬を適切に使用しなければなりません。特に抗MASA薬であるグリコペプチド系やアミノグリコシド系抗菌薬は有効血中濃度域が狭いことから、薬物血中濃度モニタリング(TDM)を行いながら使用することが推奨されます。

肺炎の予防法

 肺炎の多くは上気道感染症(風邪)に続いて起こりますので、うがい、手洗いはとても有効な予防法となります。歯磨きなど口腔内環境の洗浄化も有効です。また、インフルエンザや肺炎球菌ワクチン接種もとくに高齢者などに有効である報告があります。

おわりに

 これからの季節、肺炎が多くなります。少しでも肺炎かなと疑われる症状などありましたら、できるだけ早くにかかりつけ医や呼吸器専門の病院を受診してください。

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